相続不動産の査定はなぜ必要?税理士だけではわからない実勢価格
「税理士に相続税の計算をお願いしているから、不動産の価格も把握してもらえているはず」——そう思っている方が多くいます。
しかしこれは大きな誤解です。税理士が使う不動産の評価額は「相続税計算のための公的な数字」であり、実際に市場で売買される「実勢価格」とは別のものです。この2つの数字が大きく乖離することは珍しくなく、特に京都では数百万円から場合によって数千万円の差が生じることがあります。
相続した不動産を売る・貸す・残すという判断をするためには、不動産会社による実勢価格の査定が不可欠です。この記事では、なぜ査定が必要なのか、税理士の評価額との違いは何か、そして京都特有の査定事情を解説します。

1、税理士の評価額と実勢価格はなぜ違うのか
税理士が相続税の計算に使う不動産の評価額は、主に2種類の公的な指標をもとに算出されます。これらは「税金の計算用」に設計されたものであり、実際の売買価格とは異なります。
相続税評価額の2つの算定方式
- 路線価方式(市街地の土地):国税庁が毎年公表する「路線価」を基準に評価します。路線価は実勢価格のおおむね80%水準に設定されることが多いですが、エリアや物件の特性によって大きく乖離することがあります
- 倍率方式(農地・山林など):固定資産税評価額に一定の倍率をかけて評価します。建物については固定資産税評価額をそのまま使用します
これらはあくまで「課税の公平性」を担保するための指標です。実際の市場では立地の希少性・活用用途・買い手の属性・景気動向などが価格を左右するため、公的評価額と市場価格は必ずしも一致しません。
実勢価格とは何か
実勢価格とは、実際の不動産取引で成立した売買価格のことです。需要と供給・物件の個別条件・経済環境によって決まります。国土交通省の「土地総合情報システム」で過去の取引価格を確認することもできますが、個々の物件に対して正確な価格を知るには、不動産会社による査定が最も現実的な方法です。
「相続税評価額=売れる価格」ではありません
評価額より実際の売却価格が大幅に高い場合(→売り損になる)も、大幅に低い場合(→想定より低い価格で売ることになる)もあります。相続した不動産の「今の市場価値」を正確に把握することが、正しい判断の出発点です。

2、相続不動産の査定が必要な3つの理由
「どうせ売らないかもしれない」「まだ方向性が決まっていない」——そのような状況でも、査定だけは早めに行っておく意味があります。
理由① 「売る・残す・貸す」の判断ができない
相続した不動産をどうするかを決めるには「いくらで売れるか」という情報が不可欠です。年間維持費が50万円かかる物件でも、売却価格が3000万円であれば長期保有の判断が変わります。一方、売却価格が500万円なら早期売却の方が合理的かもしれません。実勢価格がわからないまま判断するのは、手持ちのカードを見ずにゲームをするようなものです。
理由② 空き家特例(3000万円控除)の適用判断ができない
空き家特例には「売却価格が1億円以下」という条件があります。査定を取らないと、この条件を満たすかどうかすら確認できません。また売却益(譲渡所得)の試算は「実際の売却価格の見通し」があって初めて精度が上がります。税理士への相談前に査定額を持参すると、試算の精度が格段に上がります。
理由③ 遺産分割の合意形成に必要
相続人が複数いる場合、不動産の価値を全員が共有していないと遺産分割の話し合いが進みません。「お父さんが残した家だから高いはずだ」「いや、古いから大した価値はない」——こうした感情的なすれ違いを解消するのが客観的な査定額です。不動産会社による書面の査定報告書があることで全員が同じ「事実」に基づいた話し合いができます。
3、京都の相続物件は特に乖離が大きい
京都の相続物件は、公的評価額と実勢価格の乖離が他の都市より大きくなりやすい要因が重なっています。
① 観光需要が実勢価格を押し上げる
東山・祇園・嵐山・上京などの観光エリアでは、住宅としての需要以上に宿泊施設・飲食店・体験施設として活用したい事業者・投資家の需要があります。このような「用途変換ニーズ」が価格を押し上げるため、路線価ベースの評価額より実勢価格が大幅に高くなることがあります。
② インバウンド投資・外国人購入者の影響
円安を背景に、海外の富裕層・投資家が京都の歴史的建物・町家を購入するケースが増えています。こうした買い手は日本の住宅ローン市場から切り離された存在であり、路線価に縛られない価格での取引が発生します。「京都らしい」物件は実勢価格が公的評価額を大きく上回るケースがあります。
③ 路地奥・再建築不可物件の評価の難しさ
路線価は「道路に接した土地」を基準に算定されるため、路地奥や接道不適合の土地は自動的に低く評価されます。しかし実際には、隣地所有者への売却・リノベーション投資家への売却など、一般市場とは異なる取引が成立するケースがあります。「路線価が低いから安くしか売れない」という思い込みが機会損失につながることがあります。
④ 町家の「文化的価値」が価格に反映される
旧耐震・老朽化した町家は通常の評価では建物の価値がほぼゼロに近い扱いになります。しかし梁・格子・坪庭などの京都らしい要素が残っている物件は、リノベーション需要の買い手から高く評価されます。「古いから安い」という前提が成り立たないのが京都の町家市場です。

4、査定はいつ・どこに依頼すべきか
査定のタイミングと依頼先は、結果に大きな影響を与えます。
査定を依頼するタイミング
- 相続発生後、できるだけ早めに:査定は売却決定ではありません。「どうするか決まっていない」段階でも、まず市場価格を把握しておくことが重要です。空き家特例の期限(相続から3年目年末)を意識するうえでも早めの把握が必要です
- 税理士への相談の前後に:査定額(実勢価格の見通し)があると税理士の試算精度が上がります。空き家特例・取得費加算のどちらが有利かという判断も、売却価格の見通しがあって初めて正確に計算できます
- 遺産分割の話し合いの前に:複数の相続人がいる場合、全員が納得できる公平な根拠として査定額を使えます。書面で提示できる査定報告書は話し合いの場で力を発揮します
査定は「最低3社」に依頼する
不動産会社によって査定額は数百万円単位で異なることがあります。1社だけの査定を「市場価格」と思い込むのは危険です。最低3社に依頼して価格帯の幅と各社の根拠を比較することで、実勢価格のレンジを把握できます。
| 依頼先の種類 | 特徴 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 地元密着型の不動産会社 | エリアの実情・路地奥・町家に詳しい | 京都市内の歴史的エリア・特殊物件 |
| 大手不動産会社 | 広範な取引データ・全国的なネットワーク | 一般的な住宅・マンション |
| 相続専門・買い取り業者 | 再建築不可・訳あり物件の査定に強い | 路地奥・接道不適合・早期売却希望 |
査定額が高い会社=良い会社ではない
「高い査定額を提示して媒介契約を取り、後から値下げを促す」という行為(俗に「囲い込み」「高値査定」と呼ばれる)は相続不動産の売却でも起きます。査定額の高さだけで会社を選ばず、「なぜその価格か」の根拠を説明できるかを必ず確認してください。
5、査定を読み解くポイント
査定書を受け取っても、数字だけを見ていては判断の精度が上がりません。以下のポイントを確認してください。
査定書で確認すべき項目
- 査定価格の根拠:周辺の類似物件の成約事例・路線価・土地面積・建物状態などが根拠として示されているか確認します。根拠のない数字は信頼できません
- 査定価格の種類:「売り出し価格の目安」なのか「3ヶ月以内に売れる見込み価格」なのかを確認します。会社によって定義が異なります
- 物件の弱点とその対処法:路地奥・旧耐震・老朽化などの弱点と対処法(隣地交渉・買い手層の絞り込みなど)を説明できる会社の査定は信頼性が高いです
- 想定される買い手層:「どんな買い手に届けるか」の戦略が示されているか確認します。一般住宅の買い手しか想定していない場合、京都の特殊物件では本来の価格が引き出せない可能性があります
査定額と税理士の評価額の「差」をどう使うか
| 状況 | 意味 | 対応 |
|---|---|---|
| 査定額 >> 税理士評価額 | 実勢価格が相続税評価より大幅に高い(観光エリア・希少立地などで起きやすい) | 売却を急ぐ必要性が低い。ただし空き家特例の期限は確認すること |
| 査定額 ≒ 税理士評価額 | 公的評価と市場価格が近い水準にある | 標準的な判断でよい。複数査定で裏付けを取る |
| 査定額 << 税理士評価額 | 相続税評価が実勢より高い(路地奥・再建築不可などで起きやすい) | 「小規模宅地等の特例」「広大地評価」など評価減の余地がないか税理士に相談 |

6、査定から売却・活用までの流れ
査定はゴールではなく、判断のスタートラインです。査定を得た後、どう動くかの全体像を整理します。
査定後の流れ
- STEP1 査定額と維持費を比較する:「売るといくらになるか(査定額)」と「残すといくらかかるか(固定資産税・空き家税・修繕費など)」を数字で比べます。この比較ができて初めて「売る・残す・貸す」の判断が論理的にできます
- STEP2 税理士に売却試算を依頼する:査定額を持参して税理士に相談し、空き家特例・取得費加算のどちらが有利かを試算してもらいます。売却価格の見通しがあると税額の計算精度が格段に上がります
- STEP3 相続人全員で方向性を合意する:査定額・税額試算・維持費の3つが揃えば全員が同じ情報をもとに話し合いができます。書面の査定報告書は合意形成の証拠としても機能します
- STEP4 売却・賃貸・活用の活動を始める:方向性が決まったら、依頼する会社を選定し活動開始です。特に売却の場合、空き家特例の期限から逆算してスケジュールを組むことが重要です
7、判断チェックリスト
査定に関する確認リスト
- 税理士から受け取った相続税評価額と、実勢価格の違いを理解しているか
- 不動産会社への査定依頼(最低3社)を行ったか
- 査定額の根拠(周辺事例・路線価との比較)を説明してもらったか
- 査定額を持参して税理士に売却試算を依頼したか
- 空き家特例の期限(相続から3年目年末)を確認したか
- 相続人全員が査定額を共有し、方向性を話し合ったか
- 路地奥・町家の場合、独自の買い手層(投資家・隣地)への打診を検討したか
| よくある誤解 | 正しい理解 |
|---|---|
| 税理士評価額=売れる価格だと思っている | 税理士評価額は課税計算用。実勢価格は不動産会社の査定で把握する |
| 査定は売ることを決めてからするもの | 「どうするか決まっていない」段階で査定することが重要。判断の材料になる |
| 1社の査定額を信頼してよい | 査定額は会社によって数百万円違う。最低3社に依頼して比較する |
| 路地奥・古い町家は安くしか売れない | 京都には独自の買い手層がいる。誰に届けるかで価格は変わる |
| 査定額が高い会社がベスト | 根拠なく高い査定は後から値下げを誘導される可能性がある |
まとめ
相続不動産の査定が必要な理由
- 税理士の評価額と実勢価格は別物:相続税評価額は課税のための公的な指標であり、実際の売買価格とは乖離があります。特に京都では観光需要・インバウンド投資・町家特有の価値によって、実勢価格が評価額を大きく上回るケースがあります
- 査定は「判断の材料」として必要:売る・残す・貸すのいずれを選ぶにも、「今いくらで売れるか」という情報なしに合理的な判断はできません。査定は売却決定ではなく、情報収集の手段です
- 税理士との連携に査定額が役立つ:空き家特例・取得費加算のどちらが有利かは、売却価格の見通しがないと計算できません。査定額を持参して税理士に相談することで節税試算の精度が上がります
- 最低3社に依頼し、根拠を比較する:査定額は会社によって大きく異なります。高い査定額に飛びつかず「なぜその価格か」の根拠を説明できる会社を選ぶことが、手取りの最大化につながります
「実際いくらで売れるか確認したい」「税理士と連携しながら進めたい」という段階からご相談いただけます。
8、まずはご相談ください
「相続した不動産の査定を依頼したい」「税理士評価額と実勢価格の差が気になる」「路地奥・町家の売却価格を確認したい」——まずは現状をお聞かせください。

※本記事は一般的な不動産評価・税制の考え方を解説するものです。個別の査定額・税額計算・特例の適用可否は物件の状況・行政の判断等により異なります。実際の対処にあたっては必ず不動産会社・税理士等の専門家にご相談ください。