家族信託と遺言書、京都で選ぶならどっち?
相続の備えを調べていると家族信託という言葉に行き当たります。「遺言書より優れている」と紹介されることもありますがそもそも役割が違う制度です。
どちらが向いているかは何に備えたいかで決まります。不動産の実務から見た違いを整理します。

1、2つは役割が違います
いちばん大きな違いはいつから効力があるかです。
基本の比較
| 項目 | 家族信託 | 遺言書 |
|---|---|---|
| 効力の発生 | 契約のときから | 亡くなったときから |
| 生前の財産管理 | 任せられる | できない |
| 承継先の指定 | 孫の代まで可能 | 原則一次相続まで |
| 内容の変更 | 当事者の合意が必要 | 本人の意思だけで可 |
| 費用 | 数十万円以上 | 比較的安価 |
家族信託のしくみ
登場するのは3者です。委託者(託す人=親)、受託者(管理する人=子)、受益者(利益を受ける人=多くは親本人)。親の不動産を名義だけ子に移し、利益は親が受け取る形をとります。
両方ある場合は信託が優先します
家族信託と遺言書で内容が矛盾する場合作成した順番に関係なく家族信託が優先するとされています。信託財産に入れたものは遺言の対象から外れるという理解です。
2、家族信託は「生前から」動かせる
家族信託が注目される理由は認知症への備えです。
「売りたいのに売れない」を避けられます
親御さんが施設に入られ、その費用を自宅の売却で用意しようとしたとき本人の判断能力が失われていると売却できません。家族信託で受託者(お子さん)に売却の権限を持たせておけば代わりに売れます。これが遺言書ではできない部分です。
遺言書は生きている間は何も起こしません
遺言書の効力は亡くなったときからです。認知症になったことは「死亡」に当たらないため遺言書があっても財産は凍結されたままです。「遺言を書いたから認知症対策もできている」という理解は誤りです。
もうひとつの特徴は孫の代まで承継先を指定できることです。「自分の次は妻、その次は長男」といった二段階以降の指定は遺言書では原則できません。
3、遺言書は「死後」のためのもの
では遺言書が劣っているのかというと、そうではありません。
遺言書の強み
- 費用が安い:公正証書でも信託より安価です
- 一人で決められる:家族の合意は不要
- いつでも書き換えられる
- すべての財産を対象にできる:入れ忘れの心配なし
内容を知られずに済みます
家族信託は契約ですから相手方の同意が必要で、内容はお子さんに知られます。信託登記をすれば登記簿の信託目録から第三者にも見えます。自筆証書遺言ならご本人だけで完結します。「存命中は知られたくない」場合は遺言書が向きます。

4、不動産を信託するときの実務
ここが不動産会社としてお伝えしたい部分です。信託は契約を結ぶだけでは終わりません。
まず所有権移転登記(受託者へ名義を移す)と信託登記(内容を公示する)を同時に申請します。信託登記は受託者の義務とされています。
契約書に「売却できる」と書いていないと売れません
受託者が不動産を売れるのは信託契約書に処分の権限が定められている場合です。売却を禁じる条項や第三者の同意を要する条項があれば、その条件を満たさない限り動かせません。今は売る予定がなくても売却権限を入れておくことが実務上はすすめられています。あとからの変更には手間と費用がかかります。
売却の流れ
受託者が売主となって売却し、代金は受託者名義の信託口口座に入ります。決済後は所有権移転登記と信託登記の抹消を同時に申請します。なお譲渡所得税を納めるのは受託者ではなく受益者です。契約した人と納税する人が違う——誤解されやすい点です。
住宅ローンが残っている場合は要注意
名義が受託者に移るため多くのローン契約では金融機関の承諾が必要です。承諾を得ずに信託登記をすると契約違反として一括返済を求められるリスクがあります。実績が少ない金融機関では承諾が得にくいことも。ローンがある不動産は金融機関への確認が先です。
5、費用はどれくらい違うか
判断を分けるのが費用です。家族信託は安くありません。
家族信託の費用の目安
- 登録免許税:土地は評価額の0.3%、建物は0.4%
- 公正証書の手数料:3万円台〜11万円程度
- コンサル報酬:信託財産評価の1.1%程度(最低33万円〜)
- 契約書の作成・信託登記の報酬:各11万円〜16万円程度
※事務所により異なる一般的な目安です。
不動産があると数十万円規模になります
評価額3,000万円の不動産を信託する場合登録免許税だけで10万円前後、専門家報酬を合わせると数十万円から100万円近くになることもあります。公正証書遺言が数万円から十数万円程度と考えると金額の差は小さくありません。
損益通算ができません
信託した不動産で生じた赤字は給与所得など他の所得と損益通算できず、繰越控除もできません。賃貸物件を信託する場合は負担になることがあります。収益物件をお持ちの方は税理士に影響を確認してください。
6、家族信託でもできないこと
万能ではありません。できないことを知っておくことが大切です。
家族信託の限界
- 身上監護はできない:介護施設の契約や医療の同意は対象外
- 遺留分は回避できない:他の相続人の取り分は残ります
- 信託に入れた財産だけ:入れ忘れた分は遺産分割の対象
- 相続税は減りません:節税のための制度ではありません
「節税できる」という説明にはご注意を
家族信託は財産を管理・承継するしくみで、相続税を軽くする制度ではありません。受益者が利益を受ける前提ですから相続税の計算上は本人の財産として扱われます。節税効果を強調する説明があれば根拠をよく確かめてください。
介護の手続きは別の制度です
施設の入居契約や介護サービスの契約といった身の回りの判断を代わりにするには成年後見や任意後見が必要です。家族信託はあくまで財産についてのしくみで、「信託を結んだから後見は不要」とは言えません。

7、選び方と併用という考え方
結論からいえばどちらか一方という話ではありません。
向いているケース
| 家族信託 | 遺言書 |
|---|---|
| 認知症後も不動産を動かしたい | 死後の分け方だけ決めたい |
| 施設費用を売却で賄う可能性 | 費用を抑えたい |
| 孫の代まで承継先を決めたい | 内容を知られたくない |
| 任せられるご家族がいる | 財産の構成がシンプル |
併用されることも多いです
実際には自宅は家族信託、その他の財産は遺言書という組み合わせが取られることがあります。信託に入れなかった財産は遺言でカバーする——という考え方です。財産ごとに使い分けられるため、どちらかを選ぶ必要はありません。
私たちができることと、できないこと
当社は不動産の売買を扱う会社です。不動産の価値、売却の見通し、信託された不動産の売却のお手伝いはできます。一方で信託契約の設計や登記、税務の判断は司法書士・弁護士・税理士の領域です。家族信託をお考えの場合は、取り扱い実績のある専門家にご相談ください。

まとめ
押さえておきたいポイント
- 効力の時期が違う:信託は契約時から、遺言は亡くなったときから
- 認知症対策になるのは信託:遺言書では生前の凍結を防げません
- 費用差は大きい:不動産があると数十万円規模に
- 節税の制度ではありません:管理と承継のしくみです
信託するかの判断材料として価値の見通しをお伝えします。
8、まずはご相談ください
「信託を検討しているので価値を知りたい」「将来の売却の見通しを聞きたい」——お気軽にどうぞ。

※本記事は2026年10月時点の情報をもとにした一般的な解説です。費用は事務所により異なる目安で、制度の取り扱いも個別の事情で変わります。家族信託の設計・登記は司法書士・弁護士、税務は税理士の領域です。具体的な判断は必ず専門家にご相談ください。